医療向けITサービス「HPS」

情報科学技術開発株式会社

2011年4月1日

医療保険の危機

平成23年度、全市町村の国民健康保険は単年度収支で3,022億円の赤字を計上しました。過去5年間の収支状況を見ても2,600~3,900億円の赤字が継続しています。各市町村単位で見ても、全国の53%の市町村が赤字という状況です。また、医療費の3分の1を生活習慣病が占めており、平成23年度では市町村国保における保険料支出額約9兆6,000億円のうち約3兆2,000億円が生活習慣病に起因していると考えられます。このような状況を打開するため、生活習慣病の予防や症状の軽減を目的とした「特定健診・特定保健指導」が平成20年に厚生労働省によって制度化されました。しかし、特定健診の受診率や保健指導の利用率は低迷しており、当初期待されていた成果を上げられていないのが実情です。平成23年度の健診受診率は70%の目標に対して実績は44.7%、保健指導利用率は45%の目標に対して実績は15.0%に留まっています。“生活習慣病”という身近な問題が国の基盤を揺るがしているのです。

苦悩する現場

「特定健診・特定保健指導」を地域の現場で牽引しているのは保健師です。保健師は特定健診の受診勧奨、対象者へのカウンセリングと6か月間のフォローアップ等保健指導の実施に加え、健診データを分析・評価し優先課題を見極めるスキルも求められています。このような負担が、保健指導の質や終了人数の低下(保健師1人当たり対象人数は約100人と計算される)を招いている可能性が考えられます。実際に保健師へのアンケートでは「実施するだけで手一杯で、指導の効果については分からない」といった回答がほとんどでした。

ITによる健診データの「定量的評価」

個々の膨大な健診データを科学的なアプローチで分析し指導に反映するのは、高いスキルと多くの時間を要します。また、多数のデータを統計的に扱い、市町村など地域全体としての実績を評価することも必要となります。現場の保健師などを指導する国立保健医療科学院の今井博久博士は、現場に必要なのは「定量的な評価」であり、それによって初めて自分たちの指導の良否を判断でき改善に繋げることができると言っています。今井博士が辿り着いたのは、シンプルな棒グラフと度数分布図をベースにして性別や年齢等の区分で比較する方法でした。これにより驚くほど多くのことが見えてきます。

例えば、グラフ1はA市で保健指導を受けた人の中世脂肪の改善幅の平均値を示したもので、左側が積極的支援、右側が動機付け支援(左:65歳未満、右:65歳以上)を示しています。積極的支援では男性が平均25.6mg/dlの減少、女性が36.2mg/dlの減少でした。非常に大きな改善幅で保健指導は成功したように見えます。集団の特徴を捉えるのに平均値を算出するこは第一歩として正しいものですが、注意も必要です。

グラフ1

グラフ2はグラフ1で示された積極的支援の男性の度数分布図です。縦軸は人数、横軸は改善の値(-は減少、+は増加)を表します。中性脂肪が730mg/dl程度減少している人が1人いて、その他は大きな増加も減少もなく0付近に集中しています。すなわち、突出した730mg/dl減少の人を除けば、対象者への保健指導はほとんど効果がなかったと言えます。更に注意すべきは、730mg/dl減少の人は記入ミスか測定の間違いである可能性が高いということです。平均値だけでは見えてこないことが、度数分布図と合わせて見ることで正確に把握できるようになります。このような分析を行うことが「定量的な評価」の基本になります。

グラフ2

グラフ3はグラフ1で示された動機づけ支援・65歳未満・女性の度数分布図です。右端の+130mg/dlの1人を除けば改善の平均値も良く、人数分布も0線より左側にいる人が多いので、この集団は全体として改善したと言えます。グラフ1の平均値ではほとんど0に近い値を示していた集団ですが、先ほどの例とは逆に度数分布図を使うことで効果が表れていることが見て取れます。

グラフ3

HPS(ヘルスケアプロモーションサービス)の開発

このような「定量的な評価」を行うために役立つのが、当社が提供するHPS(ヘルスケアプロモーションサービス)の健診データビジュアル表示機能です。保険者提出用の特定健診データファイル(CSV形式)をそのまま使って、誰でも簡単に健診データを分析することができます。一般的に健診データの分析で利用されているソフトウェアは複雑で様々な設定を自分で行う必要があるうえ、余計なデータの影響も受けてしまうので適切な評価に繋がらないといったデメリットがあります。HPSでは厳選された本当に必要なデータと分析の切り口を使うため、複雑な操作は一切必要ありません。また、表示されるグラフも2種類のみで、これにより明快な指導結果の分析・評価が可能となります。

表示イメージ1

HPSの特徴

1つ目のグラフは保健指導後の変化を平均値で示す「健診結果比較グラフ」です。都道府県・市町村(または保健師が担当するエリア)、対象年度、健診項目を選択するだけで、下記の分析結果が1枚で視覚的に表示されます。

    • 「積極的支援」と「動機づけ支援」の違い
    • 「動機づけ支援」における「65歳未満」と「65歳以上」の違い
    • それぞれの男女の違い

表示イメージ2(健診結果比較グラフ)

2つ目のグラフは変化の分布状況を示す「度数分布グラフ」です。最初に選択した都道府県・市町村(または保健師が担当するエリア)、対象年度、健診項目に加え、性別、年齢層、支援レベルを絞り込むことが出来、シンプルながら強力な分析機能となっています。

表示イメージ3(度数分布グラフ)

表示イメージ4(度数分布グラフ)